”フォト・デュオ '98”



                林  保明、木村  敦子写真展

                平成10年1/31(土)〜2/3(火)

          場所:会館 とどろき

        での作品です。



       

        

『センチメンタル・ジャニ−』

                                    林 保明 セビリアのバス停で行先を尋ねたおばあさんは、自分が先に降りるらしく、 運転手と前の席のおじさんに、「この人はバスターミナルで降りるから」と 何度も念を押していた。横に座ったおじさんや僕にも何かと話しかけてくる。 僕はスペイン語がほとんど出来ないのだけれど、何か少しでも通じた言葉が あると回りの人も巻き込んで、バスの中がひとしきり賑やかになった。 おばあさんは降り際にもう一度、前のおじさんに声をかけたが、彼も僕よ りは手前で降りるらしく、しきりに「シンコ、シンコ(5つ、5つ)」と叫 んでいる。僕が日本語で「ああ、分かった。このおじさんが降りてから、5 つ目で降りればいいんだ!」というと、おばあさんは「シー、シー(そうだ、 そうだ)」と言って安心したように降りて行った。セビリアのおばあさんに は日本語の方がよく通じるようだ。 人恋しさや寂しいという感情を、僕は旅の間中全く意識してはいなかった けれど、一人旅の途中途中で無意識に撮った僕の写真には、それがべースの 音のように鳴り響いていたようだ。 8月の終わり、スペインのバルセロナに始まった旅はマラガ、ロンダ、セ ビリアと、飛行機、鉄道、バスを乗り継ぎながら点々と続いて行った・・・。 底抜けに明るいアンダルシアの空の下、人々は陽気に集い、街々には夏の 終わりを楽しむ観光客が溢れていたのだけれど、そんな夏の喧噪と、真っ青 な空と海の写真の間には、見知らぬ街の人情に身をゆだね、ふれ合いを求め る、僕の目と心が写っていた。




Last modified: Thu Jan 27, 1998 Copyright (C) 1998 Yasuaki Hayashi