『海峡を渡って見ないか!』

− 隣の国・韓国の日常 −

林 保明 写真展

1999.11.2(火)〜11.7(日)
ギャラリーf分の1(御茶ノ水)



『海峡を渡って見ないか!』

                                       林 保明

 海峡を渡る潮風に吹かれながら、はじめて韓国に行った時のことを考えていた。その時は成田から飛行機でソウルに直接旅立った。1992年の冬のことである。

 仕事で韓国に行くことが決った時、周りの人達は、あまり良い反応を示さなかった。 ちょうど日韓で従軍慰安婦が問題になっていた時でもあり、テレビではソウルの日本人 観光客が、タマゴを投げつけられたというニュースをやっていた。

 僕はタマゴをぶつけられたらかなわないので、少しでも印象を良くしようと「ハング ルの世界」という新書版の本を買い、韓国語の挨拶と数を覚え、自分の名前だけはハン グルで書けるようにして行った。その本には、ハングルの文字は合理的に出来ていて3 日で覚えられると書いてあった。

 ソウルに着いた次の日、僕は昼食を買いに、おそるおそる街角のパン屋さんに入って 行った。店先には冬の柔らかい日差しが差し込み、白いエプロン姿の若い女の子が一人 店番をしていた。

 「アンニョンハセヨ!」
 「ネー、アンニョンハセヨ!」

  明るい抑揚のある声が返ってきた。

 ずらりと並んだパンを前に、はたして、僕の即席の韓国語は通じるのだろうか?、半信半疑で尋ねてみる。

 「イゴン、ムオーエヨ?(これは、何ですか?)」
 「ドーナッツ!」

 女の子が、はち切れんばかりの笑顔で答えた。

 その瞬間、僕の中で何かが崩れ去り、それをきっかけに僕は外国語学校へ通い始めた。

 最初に習った言葉は『シジャギ パニダ!(始まりは半分だ!)』、「始めればもう 半分は終わったも同然!」という、かの国のことわざである。以来7年と7ヶ月・・・、

 「四十の手習い」は「五十肩」に変わろうとしている。




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